売掛債権担保融資(ABL)を徹底解説!流動資産を資金に変える力

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売掛債権担保融資(ABL)とは?企業の隠れた資産を活かす革新的な資金調達

売掛債権担保融資」という言葉は、従来の金融手法に馴染みのある方には、少し耳慣れないかもしれません。これは、企業が保有する売掛債権(将来、取引先から代金を受け取る権利)を担保として、金融機関から融資を受ける資金調達手法です。英語では「Asset Based Lending (ABL)」と呼ばれ、売掛債権だけでなく、棚卸資産(在庫)や機械設備など、企業が保有する様々な流動資産・動産を担保の対象とする広範な概念を含みます。

デットファイナンス(負債による資金調達)の一種であり、融資を受けた資金には元本と利息を加えて返済する義務が生じます。従来の銀行融資が不動産や信用力を重視してきたのに対し、ABLは企業の「売掛債権」という、これまで十分に活用されてこなかった流動資産に着目することで、新たな資金調達の道を開きました。

この手法の最大の特徴は、企業の信用力や不動産担保の有無に過度に依存せず、売掛債権そのものが持つ価値を評価して資金を供給する点にあります。そのため、財務基盤がまだ盤石でない中小企業やスタートアップ、あるいは成長フェーズにある企業で、売上が急増しているにも関わらず、売掛金の入金と支払いの間にタイムラグが生じて資金繰りが苦しい、といった状況で特に有効です。

売掛債権担保融資は、企業の「隠れた資産」を顕在化させ、それを資金に変えることで、キャッシュフローを大幅に改善し、事業の成長を力強く後押しする革新的な資金調達手段と言えるでしょう。その仕組みを理解し、適切に活用することが、企業の安定的な経営と成長に繋がります。

売掛債権担保融資(ABL)の仕組み:どうやって資金になるのか?

売掛債権担保融資(ABL)は、従来の担保融資とは異なる、その流動資産に特化した評価と管理の仕組みを持っています。ここでは、特に売掛債権を担保とする場合の基本的な仕組みと関係者について詳しく見ていきましょう。

1.基本的な仕組み

売掛債権担保融資は、以下のようなステップで進められます。

売掛債権の発生: 企業A(融資を受ける側)が取引先B(売掛先)に商品やサービスを提供し、売掛債権が発生します。企業Aは取引先Bから将来、代金を受け取る権利を得ます。

担保設定: 企業Aは、保有する売掛債権を担保として、金融機関Cに融資を申し込みます。この際、売掛債権に対して債権譲渡登記などの担保設定が行われるのが一般的です。これにより、金融機関Cは売掛債権が担保として確保されていることを対外的に明確にできます。

審査と融資実行: 金融機関Cは、企業Aの財務状況に加え、担保となる売掛債権の質(売掛先の信用力、債権の発生根拠、回収可能性など)を審査します。審査が通れば、売掛債権の評価額の一定割合(例:70%〜90%)の資金が企業Aに融資されます。

売掛金の回収: 売掛債権の期日が来ると、取引先Bは企業Aに対して売掛金を支払います。この際、金融機関Cが売掛金の回収を直接行う場合(債権譲渡通知型)と、企業Aが回収して金融機関Cに返済する場合(債権譲渡登記型など、売掛先に通知しないタイプ)があります。

返済: 企業Aは、回収した売掛金などから金融機関Cへの融資を返済します。ABLでは、売掛金の入金に応じて随時返済する「貸越(かりこし)形式」が取られることも多く、これにより、売掛金の回収と返済が連動し、資金繰りがより円滑になります。

2.関係者とその役割

融資を受ける企業(借入人):

  • 売掛債権を保有し、それを担保に資金を調達したい企業。
  • 担保提供する売掛債権の情報(売掛先、金額、支払期日など)を金融機関に提供し、必要に応じて担保の管理を行います。
  • 売掛金の回収後、金融機関への返済義務を負います。

金融機関(貸付人):

  • 銀行、信用金庫、ノンバンクなど、ABLを提供する金融機関。
  • 担保となる売掛債権の価値とリスクを評価し、融資の可否や条件(融資額、金利など)を決定します。
  • 売掛債権の担保設定(債権譲渡登記など)を行い、必要に応じて売掛金の回収プロセスにも関与します。

売掛先(債務者):

  • 融資を受ける企業(借入人)に対して売掛金を支払う義務を負う企業。
  • 売掛債権担保融資の取引において、売掛先が直接金融機関とやり取りすることは稀ですが、債権譲渡通知型の場合、金融機関から売掛金に関する通知を受けることになります。

3.担保評価のポイント

ABLにおける売掛債権の評価では、以下の点が特に重視されます。

売掛先の信用力: 売掛債権の質を左右する最も重要な要素です。売掛先が大企業や上場企業であれば、債権の回収可能性が高く評価されます。

債権の発生根拠: 実際に売上として発生し、請求書などの裏付けがある正規の債権であるかを確認します。

回収サイト: 支払期日までの期間が短いほど、回収リスクが低く評価されます。

過去の回収実績: これまでの売掛債権の回収が滞りなく行われている実績も評価されます。

集中度: 特定の売掛先への依存度が高い場合、その売掛先の信用リスクが全体に影響するため、評価が慎重になることがあります。

このように、売掛債権担保融資は、個々の資産の価値とそこから生じるキャッシュフローに焦点を当てた、高度な金融技術が用いられる資金調達手法なのです。

売掛債権担保融資(ABL)のメリットとデメリット

売掛債権担保融資(ABL)は、従来の金融手法では資金調達が難しかった企業に新たな道を開きますが、そのメリットとデメリットを十分に理解し、自社に合っているかを判断することが重要です。

売掛債権担保融資(ABL)のメリット

不動産担保や経営者の個人保証が不要: ABLの最大のメリットは、不動産などの固定資産や経営者個人の連帯保証が原則として不要な点です。融資の対象が「売掛債権」という流動資産そのものであるため、不動産を保有していない企業や、経営者が個人保証のリスクを避けたい場合に非常に有効です。これにより、資金調達のハードルが大幅に下がります。

企業の信用力に過度に依存しない: 従来の銀行融資は、企業の過去の財務実績や全体の信用力が厳しく審査されます。しかし、売掛債権担保融資では、担保となる売掛債権そのものの質(特に売掛先の信用力)が重視されます。そのため、創業期の企業や、まだ財務基盤が盤石でない中小企業、あるいは一時的に赤字となっている企業でも、信用力の高い大口の売掛先があれば、資金調達のチャンスを得やすくなります。

融資枠が売上・成長に応じて拡大する: 売掛債権は、企業の売上が伸びるほど増加します。ABLでは、この売掛債権の増加に合わせて融資枠が拡大する(借りられる金額が増える)可能性があります。これにより、企業は成長すればするほど、より多くの資金を調達できるという、事業の拡大に合わせた柔軟な資金調達が可能となります。これは、売上が急伸しているが資金が追い付かない「黒字倒産」リスクを回避する上で非常に有効です。

迅速な資金調達が可能: 売掛債権の評価や担保設定に一定の時間はかかりますが、不動産担保融資などに比べて、融資実行までの期間が比較的短い傾向にあります。これにより、急な仕入れや運転資金の不足など、緊急性の高い資金ニーズに対応しやすくなります。

オフバランス化による財務体質改善(特定のスキーム): 売掛債権担保融資の一部スキーム(特に、担保設定ではなく売買形式に近いもの)では、売掛債権が貸借対照表から消える「オフバランス化」が実現できる場合があります。これにより、総資産が圧縮され、自己資本比率などの財務指標が改善される効果が期待できます。

売掛債権担保融資(ABL)のデメリット

コスト(金利・手数料)が発生する: 売掛債権担保融資は、従来の不動産担保融資やプロパー融資と比較して、金利や手数料が高めに設定される傾向にあります。これは、売掛債権という流動資産の評価・管理コストや、回収リスクが背景にあるためです。そのため、総返済額が増加し、企業の資金繰りを圧迫する可能性があります。

担保管理の事務負担が増える: 担保となる売掛債権の発生状況や回収状況を、金融機関に定期的に報告する必要があります。また、債権譲渡登記などの手続きも必要となり、企業側の事務負担が増える可能性があります。金融機関によっては、厳格なモニタリング体制が求められることもあります。

売掛先への影響の可能性: スキームによっては、売掛先に対して債権譲渡の事実が通知される場合があります。これにより、売掛先が「この会社は資金繰りが厳しいのか?」と不信感を抱くなど、取引関係に悪影響を与える可能性があります。そのため、売掛先に通知しない「債権譲渡登記型」の利用が一般的ですが、それでもリスクはゼロではありません。

対象となる売掛債権の限定: 全ての売掛債権が担保の対象となるわけではありません。金融機関は、売掛先の信用力、債権の発生根拠、支払条件などを厳しく審査するため、信用力の低い取引先の売掛債権や、発生から期間が経過した債権などは担保として認められない場合があります。また、債権集中度が高い場合(特定の売掛先に依存している場合)も、評価が慎重になります。

融資額が売掛債権の評価額に左右される: 融資額は、担保となる売掛債権の評価額(通常は額面の70%〜90%程度)に依存します。そのため、大規模な設備投資や長期的な大規模な資金ニーズには、単独では対応しきれない場合があります。

売掛債権担保融資(ABL)を賢く活用するためのポイント

売掛債権担保融資(ABL)を有効に活用し、事業成長に繋げるためには、いくつかの実践的なポイントを抑えることが重要です。

1.債権管理体制の徹底と透明性の確保

ABLでは、担保となる売掛債権の質と管理状況が非常に重視されます。日頃から債権管理体制を徹底し、金融機関に対して透明性の高い情報を提供できることが成功の鍵となります。

正確な債権情報の管理: 売掛先の情報、請求金額、支払期日、回収状況などを正確に管理し、いつでも金融機関に提示できるように準備しておきましょう。

債権の早期発生・早期回収: 請求書の迅速な発行や、売掛先の支払期日管理を徹底し、債権の発生から回収までの期間を短縮する努力も重要です。これにより、より多くの売掛債権を担保にできる可能性があります。

期日内回収の徹底: 過去の回収実績が金融機関の評価に影響するため、売掛債権の期日内回収を徹底し、延滞債権を最小限に抑えましょう。

情報開示の積極性: 金融機関から求められる担保明細や回収状況に関する情報を、迅速かつ正確に提供できる体制を整えましょう。これにより、金融機関からの信頼を得やすくなります。

2.資金ニーズと最適な融資形態の見極め

ABLは万能な資金調達手段ではありません。自社の資金ニーズや事業の特性に合わせて、ABLが最適な選択肢であるかを見極めることが重要です。

短期的な運転資金ニーズ: 売掛金の入金サイトが長く、一時的な資金不足が生じやすい企業にとって、ABLは非常に有効です。

成長投資の加速: 売上は伸びているが、売掛金の増加によって運転資金が不足している企業にとって、ABLは事業拡大を加速させるための有効な手段となります。

他の資金調達との比較: 銀行融資(プロパー・保証協会付き)、ファクタリングなど、他のデットファイナンスと比較検討し、金利、手数料、担保の有無、審査期間、事務負担などを総合的に考慮して最適な方法を選びましょう。特にファクタリングは売掛債権を「売却」するのに対し、ABLは「担保に融資を受ける」という点で異なります。

3.複数の金融機関との比較検討

ABLを提供する金融機関は増えていますが、そのサービス内容、金利、手数料、担保評価の基準、事務手続きなどは様々です。必ず複数の金融機関から見積もりを取り、比較検討するようにしましょう。

金利と手数料: 総コストを正確に把握し、最も有利な条件を選びましょう。

担保評価の割合: 売掛債権額面に対して、どれくらいの割合で融資を受けられるか(掛け目)を確認しましょう。

管理体制: 金融機関がどのような担保管理や報告を求めてくるのか、自社の事務負担を考慮して判断しましょう。

担当者の専門性: ABLは専門性が高いため、ABLに精通した担当者がいる金融機関を選ぶことが望ましいです。

4.財務状況と売掛先信用の健全性維持

ABLの利用は、企業の財務状況や売掛先の信用状況に影響を受けます。日頃からこれらを健全に保つ努力が不可欠です。

自己資本の充実: ABLは流動資産を担保にするとはいえ、企業の全体的な財務体質が良いに越したことはありません。自己資本比率を高める努力は、長期的な資金調達に繋がります。

売掛先の分散: 特定の売掛先への依存度が高いと、その売掛先の信用リスクがABLの条件に影響を与えるため、売掛先の分散も検討しましょう。

経営者の信用情報: 経営者自身の信用情報も、ABLの審査に影響を与える場合があります。個人の借入状況なども健全に保つことが重要です。

売掛債権担保融資(ABL)の具体的な活用シーン

売掛債権担保融資(ABL)は、特に以下のような状況でその力を発揮します。

1.売掛金増加による運転資金不足の解消

企業の売上が急増し、売掛金が大きく積み上がっているにも関わらず、入金が数ヶ月後になるため、その間の仕入れ資金や人件費、家賃などの支払いに窮する「黒字倒産」寸前の状況で非常に有効です。

  • : IT企業の開発プロジェクトが多数決定し売上が急増したが、システム開発の報酬入金が半年後となるため、開発に必要なエンジニア人件費やサーバー費用の支払いが困難になる場合。
  • : 製造業で大型受注を獲得し、原材料の大量仕入れが必要になったが、売掛金の回収が長期となるため、手元資金が不足する場合。

2.季節的な資金需要への対応

特定の季節に売上が集中する、あるいは特定の時期に先行投資が必要となる業種において、季節的な資金ニーズに対応するために活用されます。

  • : アパレル企業が冬物商品の仕入れに多額の資金が必要だが、売上入金は数ヶ月後になるため、夏の売掛債権を担保に資金を調達する。
  • : 農業法人が収穫前の育成費用(肥料、農薬、人件費など)が必要だが、売上が得られるのは収穫後のため、過去の売掛債権を担保に融資を受ける。

3.不動産担保が不足している企業の資金調達

事業に必要な不動産を保有していない、あるいは既に他の融資の担保として提供しているため、追加の不動産担保を提供できない企業にとって、ABLは貴重な資金調達の道を開きます。

  • : 成長中のベンチャー企業で、本社を賃貸しており不動産担保がないが、売掛金は豊富にあるため、それを活用して事業拡大資金を調達する。

4.短期的なつなぎ資金として

大規模な銀行融資や補助金・助成金の受給が決まっているものの、資金が実際に手元に入るまでにタイムラグがある場合、その間の短期的なつなぎ資金としてABLを活用できます。

  • : 大型プロジェクトの採算は見えているが、契約から第一回の入金まで時間がかかるため、それまでの運転資金として既存の売掛債権を担保に融資を受ける。

5.財務体質の改善(バランスシートの最適化)

ファクタリング(売買)ほどではないにせよ、ABLは流動資産の活用を通じて、企業のバランスシートをより効率的に活用する視点をもたらします。これにより、借り入れは増えるものの、資産の流動性を高め、場合によってはオフバランス効果も期待できるため、財務体質の健全性を示す上での選択肢にもなり得ます。

これらのシーンにおいて、売掛債権担保融資(ABL)は、企業の資金繰り管理の柔軟性を高め、事業の成長を後押しする有効なツールとなります。

売掛債権担保融資(ABL)は「資産の潜在力」を引き出す

売掛債権担保融資」とは、企業が保有する売掛債権という「流動資産」の潜在的な価値を最大限に引き出し、それを事業成長のための資金へと変える革新的なデットファイナンス手法です。不動産担保や企業の信用力に過度に依存することなく、売上が伸びれば融資枠も拡大するという、事業の成長に合わせた柔軟な資金調達を可能にします。

特に、売上は堅調であるものの、売掛金の入金サイトと支払いのタイムラグによって資金繰りに課題を抱える中小企業や成長企業にとって、ABLは「黒字倒産」のリスクを回避し、事業の継続と拡大を力強く支援する生命線となり得ます。

しかし、金利や手数料、担保管理の事務負担、そして売掛先への影響の可能性といったデメリットも存在するため、利用には慎重な検討が不可欠です。債権管理体制の徹底、複数金融機関との比較検討、そして何よりも資金ニーズとABLの特性が合致しているかを見極めることが成功の鍵となります。

この記事が、貴社が売掛債権担保融資(ABL)を正しく理解し、自社の「資産の潜在力」を最大限に引き出すことで、より強固な財務基盤と持続的な成長を実現するための羅針盤となれば幸いです。

編集チーム

BtoB企業のマーケティング支援を担当しているBBマーケティングが運営しています。
コラムや用語集は生成AIを活用しながら編集チームによる監修の上で掲載をしています。
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