動産担保融資(ABL)を徹底解説!機械設備や在庫を資金に変える力

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動産担保融資とは?企業の潜在資産を活かすアセットファイナンスの進化系

動産担保融資」という言葉は、従来の金融手法に馴染みのある方には少し新しい響きかもしれません。これは、企業が保有する機械設備、在庫、原材料、家畜、農産物など、不動産以外の「動産」を担保として、金融機関から融資を受ける資金調達手法のことです。英語では「Asset Based Lending (ABL)」と呼ばれ、売掛債権担保融資と並んで、アセットファイナンスの代表的な手法として知られています。

従来の融資では、不動産という確固たる資産や企業の信用力が重視されてきました。しかし、動産担保融資は、企業の事業活動に不可欠な動産に潜在する価値に着目することで、新たな資金調達の道を開きました。これにより、不動産を保有していない企業や、成長段階で在庫や設備が豊富にあるにも関わらず、十分な資金調達ができていなかった企業でも、事業の継続と拡大に必要な資金を確保できるようになりました。

動産担保融資は、単なる資金調達にとどまらず、企業のバランスシート上の「眠っている資産」を流動化し、キャッシュフローへと転換させる画期的な手法です。特に、製造業や小売業など、在庫や設備がビジネスの鍵を握る企業にとって、動産担保融資は事業の成長を力強く後押しする戦略的なツールとなり得ます。その仕組みとリスクを深く理解し、自社の事業に合った形で活用することが、企業の持続的な成長に不可欠です。

動産担保融資(ABL)の仕組みと関係者:どうやって資金が調達されるのか?

動産担保融資(ABL)は、担保となる動産の性質に合わせて、評価と管理の仕組みを構築している点が特徴です。ここでは、その基本的な流れと関係者の役割を詳しく見ていきましょう。

1.基本的な仕組み

動産担保融資の取引は、主に以下のステップで進められます。

融資の申し込み: 企業(借入人)が、保有する動産を担保として、金融機関に融資を申し込みます。この際、事業計画書、財務諸表に加え、担保となる動産のリスト(種類、数量、評価額など)を提出します。

担保動産の評価: 金融機関は、担保となる動産の評価を行います。この評価は、不動産のように画一的な基準があるわけではなく、動産の種類によって異なります。機械設備であれば、汎用性や中古市場での流動性、稼働状況などが評価され、在庫であれば、陳腐化リスク、換金性、保管状況などが評価のポイントとなります。動産の種類によっては、専門の評価機関が関与することもあります。

審査と契約: 担保評価に加え、企業の事業計画、返済能力、経営者の資質なども審査されます。審査が通れば、企業と金融機関の間で金銭消費貸借契約が締結されます。この契約には、融資額、金利、返済期間、返済方法などが詳細に定められます。

担保設定と融資実行: 融資が実行される前に、担保動産に「動産譲渡登記」や「集合動産譲渡登記」などの担保設定が行われます。これにより、金融機関は動産が担保として確保されていることを対外的に明確にできます。この担保設定が完了した後、金融機関から企業に融資が実行されます。

返済: 企業は、契約に基づき、毎月または決められたサイクルで元本と利息を金融機関に返済していきます。ABLでは、担保動産の売上や在庫の変動に応じて、随時返済する「貸越形式」が取られることも多く、これにより、キャッシュフローと連動した柔軟な資金繰りが可能となります。

2.関係者とその役割

融資を受ける企業(借入人):

  • 資金調達を希望し、保有する動産を担保として提供する主体。
  • 金銭消費貸借契約に基づき、元本と利息を返済する義務を負います。
  • 担保動産の管理・報告義務を負います。

金融機関(貸付人):

  • 銀行、信用金庫、ノンバンクなど、動産担保融資を提供する主体。
  • 担保動産の価値と借入人の信用力を評価し、融資の可否と条件を決定します。
  • 融資実行後、担保動産の管理・モニタリングを行います。

動産評価専門家(オプション):

  • 機械設備や在庫などの評価を専門とする外部の専門家が関与することがあります。
  • 動産の客観的な市場価値や流動性を評価し、金融機関の審査を支援します。

司法書士(オプション):

  • 動産譲渡登記の手続きを代行します。
  • 専門的な知識が必要なため、金融機関が手配することが多いです。

3.担保となる動産の種類と評価のポイント

動産担保融資の対象となる動産は多岐にわたり、その評価のポイントは動産の種類によって異なります。

機械設備:

  • 評価のポイント: 汎用性(特定の用途に限定されないか)、中古市場での需要、稼働状況、メンテナンス状況、耐用年数など。
  • 適した企業: 製造業、建設業、運送業など、高額な機械設備や車両を保有する企業。

在庫(棚卸資産):

  • 評価のポイント: 換金性(すぐに売れるか)、陳腐化リスク(トレンド商品ではないか)、保管状況、品質など。
  • 適した企業: 卸売業、小売業、アパレル業、食品製造業など、常に大量の在庫を保有する企業。

原材料:

  • 評価のポイント: 市場価格の安定性、流動性、汎用性など。
  • 適した企業: 製造業など、大量の原材料を保有する企業。

その他(家畜、農産物など):

  • 評価のポイント: 市場価格の安定性、生育状況、換金性など。
  • 適した企業: 畜産業、農業など。

このように、動産担保融資は、企業の「動く資産」を評価し、それを資金に変えることで、経営の安定と成長を両立させるための賢い選択と言えるでしょう。

動産担保融資(ABL)のメリットとデメリット:賢い利用のための両面理解

動産担保融資(ABL)は、企業の資金調達に大きなメリットをもたらしますが、その一方でリスクや注意点も存在します。これらを総合的に判断し、自社にとって最適な選択であるかを見極めることが重要です。

動産担保融資(ABL)のメリット

不動産担保や個人保証が不要: 動産担保融資の最大のメリットは、不動産などの固定資産や経営者個人の連帯保証が原則として不要な点です。融資の対象が「動産」という、これまで十分に活用されてこなかった資産であるため、不動産を保有していない企業や、経営者が個人保証のリスクを避けたい場合に非常に有効ですです。これにより、資金調達のハードルが大幅に下がります。

企業の信用力に過度に依存しない: 従来の銀行融資は、企業の財務状況や過去の実績が重視されますが、動産担保融資では、担保となる動産そのものの価値が融資の根拠となります。そのため、創業期の企業や、一時的に赤字となっている企業でも、価値ある動産を保有していれば、資金調達の道が開ける可能性が高まります。

融資枠が事業成長に応じて拡大する: 企業の事業が拡大すれば、それに伴って在庫や機械設備などの動産も増加します。動産担保融資では、この動産の増加に合わせて融資枠が拡大する可能性があるため、成長すればするほど、より多くの資金を調達できるという、事業の拡大に合わせた柔軟な資金調達が可能となります。これは、売上が急伸しているが資金が追い付かない「黒字倒産」リスクを回避する上で非常に有効です。

迅速な資金調達が可能: 不動産担保融資などに比べて、動産の評価や担保設定に時間がかからない場合が多く、比較的迅速に資金を調達できる傾向にあります。これにより、急な仕入れや設備投資など、緊急性の高い資金ニーズに対応しやすくなります。

キャッシュフローとの連動性: 在庫の販売や機械の稼働による収益など、動産から生み出されるキャッシュフローと連動した融資・返済形式をとることが多いため、企業の資金繰り管理がより円滑になります。

動産担保融資(ABL)のデメリット

コスト(金利・手数料)が発生する: 動産担保融資は、従来の不動産担保融資やプロパー融資と比較して、金利や手数料が高めに設定される傾向にあります。これは、動産の評価・管理コストや、資産価値の変動リスク、処分時の手間などが背景にあるためです。そのため、総返済額が増加し、企業の資金繰りを圧迫する可能性があります。

担保管理の事務負担が増える: 担保となる動産(特に在庫など)は、常に変動するため、金融機関にその状況を定期的に報告する必要があります。また、動産譲渡登記などの手続きも必要となり、企業側の事務負担が増える可能性があります。金融機関によっては、厳格なモニタリング体制が求められることもあります。

担保動産を失うリスク: 不動産担保融資と同様に、返済が滞った場合、担保として提供した動産を失うリスクがあります。例えば、生産に不可欠な機械設備や、販売を予定していた在庫が差し押さえられれば、事業の継続が困難になる可能性もあります。

対象となる動産が限定される: 全ての動産が担保の対象となるわけではありません。金融機関は、動産の換金性、陳腐化リスク、市場での流動性などを厳しく審査するため、汎用性の低い機械設備や、流行に左右される在庫などは担保として認められない場合があります。

動産評価額の変動リスク: 動産の価値は、市場価格や時間経過(陳腐化)によって変動します。融資実行後、動産の価値が下落した場合、担保価値が融資額を下回る「担保割れ」が発生する可能性があり、追加の担保や一括返済を求められるリスクもゼロではありません。

動産担保融資(ABL)を賢く活用するためのポイント

動産担保融資(ABL)を単なる借入としてではなく、事業成長のための戦略的なツールとして活用するためには、以下の実践的なポイントを抑えることが重要です。

1.担保動産の価値と管理体制を明確にする

金融機関は、担保動産の価値を厳格に評価し、その管理体制を重視します。日頃から動産の価値と管理状況を正確に把握し、金融機関に対して透明性の高い情報を提供できることが成功の鍵となります。

  • 動産台帳の整備: 機械設備や車両などは、型番、取得価格、取得時期、減価償却費、メンテナンス状況などを正確に記録した台帳を整備しましょう。
  • 在庫管理の徹底: 在庫を担保にする場合、在庫の種類、数量、場所、入出庫状況などを正確に管理し、金融機関の定期的なモニタリングに対応できる体制を整えましょう。
  • 第三者評価の活用: 専門家による動産の評価書を準備しておくことで、金融機関の審査をスムーズに進めることができます。

2.資金ニーズと最適な融資形態の見極め

動産担保融資は万能な資金調達手段ではありません。自社の資金ニーズや事業の特性に合わせて、動産担保融資が最適な選択肢であるかを見極めることが重要です。

  • 短期・中期的な資金ニーズ: 在庫の仕入れや設備の買い替えなど、比較的短期から中期的な資金ニーズに特に有効です。
  • 成長フェーズの資金不足: 企業は成長過程で在庫や設備が増加する一方で、キャッシュフローが追いつかないことがあります。このような「成長痛」を和らげるために、動産担保融資は非常に有効です。
  • 他の資金調達手段との比較: 銀行融資、ファクタリング、不動産担保ローンなど、他の資金調達手段と比較検討し、金利、手数料、担保の有無、審査期間、事務負担などを総合的に考慮して最適な方法を選びましょう。

3.複数の金融機関からの比較検討と信頼できるパートナー選び

動産担保融資を提供する金融機関は増えていますが、そのサービス内容、金利、担保評価の基準は様々です。一社だけでなく、必ず複数の金融機関から提案を取り、内容を徹底的に比較検討するようにしましょう。

  • 金利と手数料: 総コストを正確に把握し、最も有利な条件を選びましょう。動産担保融資は、金利が割高な場合があるため、この比較は特に重要です。
  • 担保評価の割合: 担保動産の評価額に対して、どれくらいの割合で融資を受けられるか(掛け目)を確認しましょう。
  • 管理体制: 金融機関がどのような担保管理や報告を求めてくるのか、自社の事務負担を考慮して判断しましょう。
  • 担当者の専門性: 企業の事業内容や担保動産について深く理解し、適切な提案ができる専門性の高い担当者との連携が望ましいです。

4.税務・法務の専門家との連携

動産担保融資は、法務や税務に複雑な影響を与える場合があります。必ず、税理士や公認会計士、弁護士、司法書士などの専門家と連携し、事前に影響を把握し、最適なスキームを検討しましょう。

  • 法務上の確認: 動産譲渡登記などの手続きや、融資契約書の内容を弁護士にレビューしてもらい、不利な条項がないか、法的なリスクがないかを確認しましょう。
  • 税務上の影響: 融資を受けた資金の使途と会計処理など、税務上の取り扱いを確認し、納税額への影響を把握します。

5.情報開示と誠実なコミュニケーション

金融機関との信頼関係は、融資の成功と将来的な関係維持において非常に重要です。

  • 透明性の確保: 決算書や事業計画書、担保動産のリストなど、求められた情報は迅速かつ正確に提供し、経営状況をオープンにすることで、信頼関係を築きましょう。
  • 定期的な報告: 融資実行後も、事業の進捗状況や担保動産の状況を定期的に報告し、良好な関係を継続することが、将来の追加融資や条件変更に繋がる可能性があります。

動産担保融資(ABL)の具体的な活用シーン

動産担保融資(ABL)は、特に以下のような状況でその真価を発揮します。

1.在庫の増加に伴う運転資金不足の解消

製造業や小売業など、売上が伸びて在庫が増加しているにも関わらず、売掛金の入金が遅れるため、その間の仕入れ費用や人件費、家賃などの支払いに窮する場合に有効です。

  • : 卸売業者が、年末の需要期に備えて大量の商品を仕入れたいが、手元資金が不足しているため、既存の在庫を担保に融資を受ける。
  • : 食品製造業者が、新商品の製造に必要な原材料を大量に確保したいが、売掛金の入金までタイムラグがあるため、現有の原材料や製品在庫を担保に資金を調達する。

2.設備投資や機械の買い替え資金の調達

事業の拡大や生産性向上を目指して、新たな機械設備の導入や老朽化した設備の買い替えが必要になった場合、その資金を動産担保融資で賄います。特に、不動産を保有していない企業や、既に他の借入の担保としている場合に有効です。

  • : 建設会社が、高額な重機を担保に、新たな重機を導入するための資金を調達する。
  • : 印刷会社が、保有する印刷機を担保に、最新の高速印刷機を導入するための資金を調達する。

3.季節的な資金需要への対応

特定の季節に売上が集中する、あるいは特定の時期に先行投資が必要となる業種において、季節的な資金ニーズに対応するために活用されます。

  • : 季節商品を扱う小売業が、繁忙期前の仕入れ資金として、既存の在庫を担保に融資を受ける。
  • : 農業法人が、作物の生育に必要な費用(肥料、農薬など)を、将来の収穫物(育成中の作物)を担保に調達する。

4.銀行融資が困難な場合の代替手段

創業間もない企業や、一時的な赤字決算の企業など、銀行融資の審査に通りにくい場合でも、動産担保融資は、在庫や機械設備といった「動く資産」の価値を評価するため、資金調達の道を開いてくれます。

  • : 新規事業の立ち上げ直後で実績がないため、銀行融資の審査が厳しく、事業に不可欠な機械設備を担保に初期運転資金を確保する。

このように、動産担保融資は、企業の特定の課題に対して、柔軟かつ効果的なソリューションを提供できる、アセットファイナンスの強力な手法です。

動産担保融資は「動く資産」の価値を資金に変える力

動産担保融資」とは、企業が保有する機械設備や在庫などの「動産」を担保に、資金を調達するアセットファイナンスの代表的な手法です。企業の信用力や不動産の有無に過度に依存せず、「動く資産」の潜在的な価値を資金に変えることで、事業の成長を力強く後押しする力を秘めています。

特に、製造業や小売業など、在庫や設備がビジネスの鍵を握る企業にとって、動産担保融資は、売上増に伴う運転資金不足や、新たな設備投資など、事業の成長を加速させるための有効な選択肢となります。また、企業の成長に合わせて融資枠が拡大する可能性がある点も大きな魅力です。

しかし、金利や手数料、担保管理の事務負担、そして担保資産を失うリスクといったデメリットも存在するため、利用には慎重な検討が不可欠です。動産の価値と管理体制を明確にし、複数の金融機関からの提案を比較検討し、そして専門家と連携することが、動産担保融資成功の鍵となります。

この記事が、貴社が動産担保融資を正しく理解し、自社の「動く資産」の潜在力を最大限に引き出すことで、より強固な財務基盤と持続的な成長を実現するための羅針盤となれば幸いです。

編集チーム

BtoB企業のマーケティング支援を担当しているBBマーケティングが運営しています。
コラムや用語集は生成AIを活用しながら編集チームによる監修の上で掲載をしています。
会計サービスのマーケティング支援で学んだ事や活用できる情報を掲載していきます。
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