IT・SESでファクタリングが注目される理由
近年、IT業界においてファクタリングによる資金調達が急速に広がりを見せています。特にSES(システム・エンジニアリング・サービス)事業者においては、その特殊な事業構造から資金繰りの課題を抱えることが多く、ファクタリングが有効な解決策として注目されています。
編集部:IT業界、特にSES事業は人材派遣の性格が強いため、先行投資が必要になる場面が多いのが特徴です。
IT業界は多重下請構造が特徴的で、元請けから一次下請け、二次下請けと階層が下がるにつれて利益率が低下し、回収サイトが長期化する傾向があります。中小企業実態基本調査によると、IT業(情報通信業)の回収サイトは1.78ヶ月となっており、全業種平均の1.23ヶ月を大幅に上回っています。
この構造的な問題により、IT・SES事業者は以下のような課題を抱えています:
• 回収サイトの長期化による資金繰り悪化
• 人材確保のための先行投資の必要性
• 売上の不安定性による計画的な資金繰りの困難さ
• 銀行融資における審査の厳格化
これらの課題に対して、ファクタリングは売掛金を早期に現金化することで、資金繰りの改善と事業拡大の機会を提供する有効な手段となっています。
IT・SES業界の資金調達における構造的課題
IT・SES業界における資金調達の困難さは、業界特有の構造に起因しています。特に重要な問題として挙げられるのが、多重下請構造による影響です。
多重下請構造が生む資金繰りの困難
IT業界では、大手IT企業が元請けとなり、中小のSES企業が下請けとして参画する構造が一般的です。この構造において、下請け企業ほど不利な支払条件を受け入れざるを得ない状況が生まれます。
公正取引委員会の調査によると、下請けIT業者(資本金3億円以下)の75.1%が特定ベンダーの協力会社として受注するか、代表者や従業員のコネによって受注しています。このような受注構造は売上の不安定さを生み、長期的な事業計画の策定を困難にしています。
利益率の低さと売上格差
IT業界では、大手企業と中小企業の間に大きな格差が存在します。2016年度のデータでは、大手IT業者の平均売上高が158.34億円であるのに対し、中小IT業者は1.59億円と、100倍もの格差が存在しています。
さらに深刻なのが利益率の差で、経常利益では大手と中小の差が250倍にも達しています。この利益率の低さは、銀行融資における審査に大きく影響し、中小SES企業の資金調達を困難にしています。
編集部:この格差は単なる規模の違いではなく、多重下請構造による構造的な問題として理解する必要があります。
入金サイクルの特殊性
SES事業では、エンジニアの派遣という性質上、入金サイクルが複雑になることがあります。プロジェクトの進捗に応じた分割払いや、完成後の一括払いなど、案件によって異なる支払条件が設定されることが多く、これが資金繰りの予測を困難にしています。
特に大型プロジェクトを受注した場合、人材の先行確保が必要となり、給与支払いが先行する一方で、売上の回収は数ヶ月後となるケースが頻発します。このキャッシュフローのギャップが、SES企業の資金繰りを圧迫する主要因となっています。
ファクタリングがIT・SES企業にもたらすメリット
ファクタリングは、IT・SES企業が抱える資金調達の課題に対して、従来の融資とは異なるアプローチで解決策を提供します。
審査基準の違いによる調達しやすさ
銀行融資では利用企業の業績や財務状況を基準に審査が行われますが、ファクタリングでは売掛金の価値を基準に審査が実施されます。この違いにより、業績に問題を抱えるSES企業でも、優良な売掛先があれば資金調達が可能となります。
特にSES企業の場合、売掛先は大手IT企業であることが多く、これらの企業は支払い能力が高いため、ファクタリング審査において有利に働きます。実際に、銀行融資を断られたSES企業がファクタリングで調達に成功する事例は数多く存在します。
無担保・無保証での利用可能性
ファクタリングは法的に債権譲渡であり、融資のような返済義務がないため、担保や保証を必要としません。SES企業の多くは、パソコンなどの機器以外に大きな資産を持たないため、担保提供が困難な場合が多いですが、ファクタリングならばこの問題を回避できます。
業歴不問での資金調達
IT業界は開業率が6.1%と高く、新規参入が活発な業界です。しかし、銀行融資では業歴が短い企業の審査は厳格になりがちです。ファクタリングでは、業歴の長さではなく売掛金の質が重視されるため、創業間もないSES企業でも資金調達が可能です。
編集部:スタートアップが多いIT業界において、業歴不問というのは非常に大きなメリットですね。
スピーディな資金調達
SES事業では、急な案件受注に対応するための人材確保が必要になることがあります。ファクタリングは最短即日での資金調達が可能で、特にオンラインファクタリングでは数時間での資金化も実現されています。
• 2社間ファクタリング:最短即日
• 3社間ファクタリング:最短1週間程度
• オンラインファクタリング:最短数時間
この迅速性により、ビジネスチャンスを逃すことなく、機動的な事業展開が可能となります。
実際の成功事例:兵庫県のSES企業E社長のケース
ここでは、実際にファクタリングを活用して事業拡大を実現したSES企業の事例を詳しく見ていきましょう。
事例の概要
• 経営者:45歳のE社長
• 会社経営年数:8年
• 所在地:兵庫県
• 年商:8千万円
• 決算状況:赤字決算
• 調達成功額:300万円
• 取引方法:2社間ファクタリング
資金調達が必要となった背景
E社長が経営するSES企業は、IT系技術者を様々な企業に派遣する事業を展開していました。順調に売上を伸ばしていた中で、大手企業との新規取引の機会が舞い込みました。
しかし、この案件に対応するためには現在の人員では不足で、新たに5~6名の増員が必要な状況でした。SES事業の特性上、人材を雇用して派遣を開始しても、派遣先企業からの支払いは2~3ヶ月後となるため、先行して給与を支払う必要があります。
さらに、優秀な人材を確保するための求人費用も必要で、IT業界の人材確保競争が激化する中、一人当たりのコストも上昇傾向にありました。
ファクタリング選択の理由
E社長は資金調達方法として、以下の選択肢を検討しました:
1. 銀行融資:赤字決算のため審査通過が困難
2. ビジネスローン:利息率が高く、長期的な負担が大きい
3. ファクタリング:手数料は発生するが、迅速かつ確実な調達が可能
結果として、E社長は全額をファクタリングで調達することを決定しました。取引先との関係を重視し、通知なしの2社間ファクタリングを選択し、手数料率15%で300万円の調達に成功しました。
調達後の事業展開
調達した300万円を活用して、E社長は以下の施策を実行しました:
1. 求人活動の実施:求人広告の出稿と面接の実施
2. 5名の新規雇用:計画通りの人材確保を実現
3. 派遣事業の拡大:大手企業との取引開始
雇用開始から3ヶ月後には派遣先からの入金が開始され、人件費をまかなえる体制が整いました。この結果、E社長の企業は取引先の多様な要望に応えられる体制を構築し、事業規模の拡大を実現しました。
編集部:この事例は、ファクタリングが単なる資金調達手段ではなく、事業成長の触媒として機能した好例といえますね。
まとめ:IT・SES企業におけるファクタリング活用の可能性
IT・SES業界におけるファクタリングの活用は、業界特有の課題に対する有効な解決策として位置づけられます。多重下請構造による回収サイトの長期化、利益率の低さ、売上の不安定性といった構造的な問題に対して、ファクタリングは以下のような価値を提供します:
主要なメリットの再確認
• 審査基準の優位性:売掛先の信用力を基準とした審査により、業績に課題がある企業でも調達可能
• 担保・保証不要:資産が少ないSES企業でも利用しやすい仕組み
• 業歴不問:創業間もない企業でも売掛金があれば調達可能
• 迅速な資金化:最短即日での調達により、ビジネスチャンスを逃さない
• 回収不能リスクの軽減:償還請求権なしの契約により、リスク移転が可能
成功事例から見る活用のポイント
兵庫県のE社長の事例からは、以下のような活用のポイントが浮かび上がります:
1. 事業拡大のタイミングでの活用:新規案件への対応力強化
2. 適切な方式の選択:取引先との関係を考慮した2社間ファクタリング
3. 計画的な資金活用:人材確保から収益化までの道筋を明確化
今後の展望
IT・SES業界では、DX推進による需要拡大が見込まれる一方で、人材確保競争の激化も予想されます。このような環境下において、ファクタリングは事業拡大のための重要な資金調達手段として、さらなる活用が期待されます。
特に、オンラインファクタリングの普及により、IT企業にとってより使いやすいサービスが提供されるようになっており、資金調達の選択肢として定着していくものと考えられます。
編集部:IT・SES企業にとってファクタリングは、単なる資金調達手段を超えて、事業成長を支える戦略的なツールとして活用できる可能性を秘めています。業界特有の課題を理解し、適切に活用することで、競争優位の構築につなげていくことが重要でしょう。
ファクタリングを検討されているIT・SES企業の経営者の皆様には、自社の事業特性と資金調達ニーズを整理した上で、信頼できるファクタリング会社との相談を通じて、最適な活用方法を見つけていただければと思います。