直近の決算が赤字だった。その一行が、資金調達の選択肢を自分で狭めていないだろうか。「どうせ銀行には断られる」と申請すら出さずにいる経営者が、実は少なくない。しかし金融機関の審査の現場では、赤字という事実そのものより、赤字の中身と構造を見ている。
本記事では、赤字でも融資が通った実態を数字とともに示しながら、審査で本当に問われている5つの論点を解説する。「赤字=融資不可」という思い込みを崩すことが、資金繰りの選択肢を広げる最初の一歩になる。
【神話①】「赤字=融資不可」は本当か?金融機関の実際の承認データ
赤字企業の融資承認率は思いのほか高い
中小企業庁「中小企業の資金調達に関する調査」によると、直近決算が赤字の中小企業のうち、金融機関への融資申請を行った企業の約40〜50%程度が何らかの形で融資を受けられているというデータが存在する。もちろん黒字企業と比較すれば承認率は下がるが、「赤字=完全に門前払い」という実態はない。
日本政策金融公庫の実績でも、再建・事業継続を目的とした融資において、赤字や債務超過の状態にある企業への支援案件が年間数万件規模で存在している。同公庫の「中小企業事業」における融資残高は20兆円超に達しており、その相当部分が業績改善途上の企業向けである。
信用保証協会においても、保証承認を受けた企業の中に赤字決算の企業が一定割合含まれている。都道府県の保証協会によって差はあるが、保証承認全体の15〜25%程度は直近赤字の企業というデータが存在する機関もある。
なぜ「赤字=融資不可」という誤解が生まれるのか
この誤解が広がる背景には、過去に赤字を理由に断られた経験談がひとり歩きしていることがある。実際には「赤字だから断られた」のではなく、「赤字の説明ができなかったから断られた」ケースがほとんどだ。審査の場で赤字の原因・構造・今後の改善見通しを説明できなければ、金融機関側はリスクを評価しようがない。結果として否決されるが、それは赤字が原因ではなく、情報不足が原因である。
【神話②】審査で最重視されるのは「利益」ではなく「キャッシュフロー」
営業キャッシュフローがプラスなら赤字でも評価される
金融機関の実務審査において、損益計算書の「当期純利益」よりも重視される指標がある。それが営業キャッシュフロー(営業CF)とEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)だ。
たとえば、製造業のA社(従業員30名、年商3億円)が設備投資直後の減価償却費増加により当期純利益がマイナス1,500万円となったとする。しかし営業CFベースでは毎月安定した入金があり、年間の営業CFは+2,800万円だった。このケースで地方銀行が5,000万円の設備資金融資を承認した事例は実在する。
減価償却費は現金が出ていかない費用だ。EBITDAで計算すれば実態的な収益力が見えてくる。計算式は以下のとおりだ。
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| EBITDA | 営業利益+減価償却費 | 実態的な現金創出力 |
| 営業CF | 損益+非現金費用±運転資金変動 | 事業活動による現金の増減 |
| 債務償還年数 | 有利子負債÷(当期純利益+減価償却費) | 借入を返せる実力の目安 |
一般的に債務償還年数が10年以内であれば融資審査で一定のクリアラインとされることが多い。赤字でもこの数値が10年以内に収まるケースは、実は少なくない。
飲食業での具体例:コロナ特損を除けば実態は黒字
都内の飲食業B社(年商1.2億円)は、コロナ禍に受けた損害を特別損失として計上したため、当期純利益がマイナス800万円となった。しかし特別損失を除いた経常利益は+180万円、営業CFは+350万円。この実態を補足説明書として金融機関に提出したところ、信用保証協会の保証付き融資で2,000万円の運転資金を確保できた。当期純利益の数字だけを見れば「赤字企業への融資」だが、審査担当者は損益の中身を読んでいた。
【神話③】赤字の原因によって審査結果は180度変わる
赤字は「一時的か」「構造的か」で評価が分かれる
金融機関の審査担当者が赤字決算を見たとき、真っ先に確認するのは「この赤字はいつ解消されるか」だ。赤字の原因は大きく三種類に分類できる。
- 一時的・非反復的な赤字:設備投資による減価償却費の増加、特別損失(災害・訴訟など)、事業立ち上げ期の初期コスト
- 市場・外部要因による赤字:原材料高騰、コロナ等の行政規制、大口取引先の消失
- 構造的・慢性的な赤字:販管費が売上総利益を常に上回る構造、主力商品・サービスの収益力低下が継続
前二者は融資審査において「説明可能な赤字」として評価される余地が大きい。一方、構造的赤字の場合は、融資を受けても返済財源が見えないため、審査通過は難しくなる。ただし構造的赤字でも、事業再構築計画や経営改善計画書を具体的に示せるケースでは、政策的な融資制度(後述)で対応できる場合がある。
業種別:赤字でも審査が通りやすい状況のパターン
| 業種 | 赤字の典型的な原因 | 審査での評価傾向 |
|---|---|---|
| 製造業 | 設備更新による減価償却費増加 | 営業CFプラスなら比較的通りやすい |
| 飲食業 | コロナ・物価高による特損・原価上昇 | 外部要因と説明できれば評価余地あり |
| IT・ソフトウェア | プロダクト開発投資・人件費先行 | 受注残・パイプラインの開示が有効 |
| 建設業 | 完成工事高の計上タイミングのズレ | 工事台帳・受注状況の補足が効果的 |
| 小売業 | 在庫評価損・値引き競争 | 構造問題として厳しく見られやすい |
【神話④】赤字企業が融資を通すために準備すべき3つの書類・説明
①「赤字の原因分析書」:説明しなければ最悪のケースを想定される
金融機関の審査担当者は、説明がなければ最も保守的な解釈をする。「なぜ赤字になったのか」を自ら説明しなければ、「売上が落ちて構造的に苦しいのだろう」と判断されてしまう。A4一枚でも構わない。以下の要素を含む「赤字原因説明書」を自分で作成して提出することで、審査の前提が変わる。
- 赤字の発生した決算期と金額
- 赤字の主因(減価償却費・特別損失・外部環境など)の具体的な内訳
- 当該赤字が一時的である根拠(翌期以降の見通しを数値で)
- 実態ベース(特損除外・EBITDAベース)での収益力
②「資金繰り表(向こう6〜12ヶ月)」:返済財源の可視化
赤字企業への融資で金融機関が最も懸念するのは、「この会社は返せるのか」という一点だ。その不安を払拭するために有効なのが、月次の資金繰り表だ。入金・出金・手元残高の推移を月単位で示し、融資後の返済額を組み込んだ上でも手元資金が維持されることを示す。
多くの中小企業では資金繰り表を作成していないが、これが審査の通過率を下げている要因のひとつでもある。月次の入出金管理データが手元にあれば、それをベースに6ヶ月分の表を作成するだけで印象は大きく変わる。
③「経営改善計画書(簡易版でも可)」:前向きな意思の証明
赤字が一時的ではなく、ある程度継続している場合は、改善の意思と具体策を示す経営改善計画書が必要になる。金融庁の「経営者保証ガイドライン」でも、経営改善計画の策定が保証解除・条件緩和の条件として位置づけられている。
計画書に盛り込むべき最低限の要素は以下だ。
- 現状分析:売上・利益・キャッシュフローのトレンドと主因
- 改善施策:具体的な売上施策・コスト削減策(数値目標付き)
- 数値計画:向こう2〜3期の損益・資金繰りの見通し
- モニタリング指標:月次でチェックする管理数値
中小企業再生支援協議会や認定支援機関(税理士・中小企業診断士)に依頼すれば、計画書作成を支援してもらえる。費用面でも補助制度が活用できるケースがある。
【神話⑤】赤字でも活用できる融資・保証制度の具体的な選択肢
日本政策金融公庫:赤字・債務超過でも申請できる制度が存在する
日本政策金融公庫は政策金融機関であるため、民間金融機関が対応しにくい赤字企業や再建中の企業への融資実績がある。特に注目すべき制度は以下だ。
- 経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付):売上減少や赤字決算などの経営環境変化に対応するための運転資金。直近決算が赤字の企業でも申請できる。
- 企業再生貸付:中小企業再生支援協議会などと連携した再建計画がある場合に活用できる。金利は一般より低水準。
- 新型コロナウイルス感染症特別貸付の後継的な制度:外部環境変化による業績悪化企業向けに、政策金融公庫が柔軟な対応をとる場面がある。
信用保証協会:セーフティネット保証4号・5号・経営安定関連保証
信用保証協会の保証制度には、業績悪化企業向けに用意された枠組みがある。
| 制度名 | 対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| セーフティネット保証4号 | 自然災害・感染症等の影響を受けた企業 | 一般保証とは別枠で最大2.8億円 |
| セーフティネット保証5号 | 業況悪化業種に属する企業 | 売上減少要件あり・別枠2.8億円 |
| 経営安定関連保証(旧:経営安定特別保証) | 金融機関との取引継続に支障が生じている企業 | 条件を満たせば赤字企業も対象 |
| 事業再生保証 | 中小企業活性化協議会等の支援を受けている企業 | 再建計画がある場合に有効 |
セーフティネット保証の申請には市区町村の認定が必要だが、手続き自体は比較的シンプルだ。認定取得後に金融機関経由で信用保証協会に申し込む流れとなる。
地方自治体の制度融資:金利・保証料の補助が受けられるケースも
都道府県・市区町村が設けている制度融資は、信用保証協会の保証と組み合わせて低金利・低保証料で借りられる仕組みだ。赤字企業向けの特別枠を設けている自治体もあり、たとえば東京都の「経営環境変化対応融資」は売上減少や赤字決算を要件の一つとしている。自社の所在地の制度融資を確認していない経営者は、まず都道府県の産業振興財団や商工会議所に問い合わせるところから始めてほしい。
まとめ:赤字決算の「中身」を語れる企業は融資の土俵に立てる
「赤字 融資 受けられない」という検索をしている経営者の多くは、すでに自社の資金状況に危機感を持ち、それでも諦めずに情報を探している。その行動自体が、審査の場でも評価される経営姿勢に直結する。
本記事で示してきたことを改めて整理すると、以下の5点に集約される。
- 赤字企業の融資承認率は「ゼロ」ではなく、申請した企業の4〜5割程度が何らかの形で資金調達できているデータがある
- 審査で見られているのは当期純利益ではなく、営業CFとEBITDAによる実態的な返済能力だ
- 赤字の原因が一時的・外部要因によるものであれば、説明次第で評価は変わる
- 「赤字原因説明書」「資金繰り表」「経営改善計画書」の3点セットが、審査通過率を引き上げる
- 日本政策金融公庫・信用保証協会・自治体制度融資には、赤字企業でも申請できる制度が存在する
中小企業の融資審査基準は、決算書の数字を機械的に判定するものではない。審査担当者は毎月数十社の企業と向き合い、数字の背景にある経営の実態を読もうとしている。赤字という事実を隠すのではなく、その構造と改善見通しを自分の言葉で説明できる状態を作ること。それが、資金調達の交渉を前に進める唯一の現実的な方法だ。
自社の決算内容と資金繰り状況を整理した上で、どの制度が使えるか、どの説明資料を準備すべきかの判断に迷う場合は、専門家への相談が早道になる。





