赤字決算でも資金調達の道はある
「赤字決算が続いている企業には、もう資金調達の道は閉ざされているのではないか」——そう考えている経営者や経理責任者の方は少なくありません。確かに、赤字という事実は金融機関や投資家から見れば懸念材料となります。しかし、赤字=資金調達不可という単純な図式は成り立ちません。
実際のビジネスの現場では、新規事業への先行投資、設備投資の減価償却負担、一時的な市場環境の悪化など、様々な理由で赤字に陥ることがあります。重要なのは、赤字の「質」と「将来性」です。資金提供者が見ているのは、単なる決算書の数字だけではなく、その背景にある事業の実態や回復可能性なのです。
本記事では、赤字状態にある企業が現実的に活用できる資金調達手法を整理し、金融機関がどのような視点で審査を行うのか、どのような準備をすれば調達可能性を高められるのかについて、実務的な観点から解説していきます。資金繰り改善を任されている経理責任者の方々にとって、具体的な判断軸となる情報を提供します。
金融機関は赤字企業をどう見ているか
資金調達を考える上で、まず理解しておくべきは金融機関の審査視点です。銀行などの金融機関は、融資した資金が確実に返済されるかどうかを最も重視します。そのため、赤字企業に対しては慎重な姿勢を取るのが一般的です。
金融機関が重視する評価ポイント
しかし、赤字だからといって一律に融資を断るわけではありません。金融機関は以下のような多角的な視点から企業を評価しています。
| 評価項目 | 金融機関の視点 |
|---|---|
| 赤字の原因 | 一時的な要因か、構造的な問題か。先行投資による計画的な赤字か、売上減少による赤字かを区別 |
| キャッシュフロー | 損益計算書上は赤字でも、営業活動によるキャッシュフローがプラスであれば評価される |
| 事業計画の妥当性 | 黒字化に向けた具体的で実現可能な計画があるか。根拠に基づいた数値目標の有無 |
| 担保・保証 | 不動産担保、代表者保証、第三者保証などリスクヘッジ手段の有無 |
| 既存取引の履歴 | 返済実績、取引年数、延滞の有無などの信用履歴 |
特に注目すべきは、「赤字でもキャッシュフローがプラス」というケースです。減価償却費などの非資金費用が大きい場合、会計上は赤字でも実際の現金収支は健全ということがあります。このような企業は、金融機関からも比較的前向きに評価される傾向にあります。
【編集部コメント】
金融機関との対話では、赤字の「理由」を論理的に説明できるかが重要です。単に「売上が下がった」ではなく、「市場環境の変化により売上が15%減少したが、コスト削減策により来期は損益分岐点を超える見込み」といった具体的な説明が求められます。
赤字企業が活用できる資金調達手法
赤字状態であっても、企業の状況に応じて活用できる資金調達手法は複数存在します。それぞれの特徴と適用条件を理解し、自社に最適な方法を選択することが重要です。
1. 制度融資・政府系金融機関の活用
日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関は、民間金融機関よりも柔軟な審査基準を持っています。特に、中小企業の支援を目的としているため、赤字企業であっても事業の将来性や社会的意義が認められれば、融資を受けられる可能性があります。
また、各自治体が実施している制度融資も有効な選択肢です。制度融資は自治体、金融機関、信用保証協会の三者が連携して中小企業を支援する仕組みで、通常の融資よりも低金利で、返済期間も長く設定されていることが多いのが特徴です。
- セーフティネット保証制度: 経営環境の悪化により資金繰りが厳しい企業向けの保証制度
- 危機関連保証: リーマンショックやコロナ禍のような経済危機時に発動される特別保証
- 経営改善サポート保証: 認定支援機関の支援を受けながら経営改善に取り組む企業向け
2. ファクタリングによる資金調達
赤字企業にとって特に有効なのがファクタリングです。ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に売却することで、入金期日前に資金化する手法です。
ファクタリングの最大の特徴は、企業の信用力よりも売掛先の信用力が重視される点です。つまり、自社が赤字であっても、売掛先が信用力の高い企業であれば、比較的容易に資金調達が可能になります。
| ファクタリングの種類 | 特徴 | 赤字企業への適性 |
|---|---|---|
| 2社間ファクタリング | 自社とファクタリング会社のみで完結。売掛先に知られない | ◎ 取引先に資金繰り悪化を知られたくない場合に最適 |
| 3社間ファクタリング | 売掛先も含めた三者間契約。手数料が低い | ○ 売掛先の理解が得られる場合はコスト面で有利 |
| 医療・介護報酬ファクタリング | 診療報酬・介護報酬債権を対象とした特化型 | ◎ 医療・介護事業者は売掛先が公的機関のため審査が通りやすい |
ただし、ファクタリングは融資ではなく債権の売却であるため、手数料が発生します。手数料率は2社間で10〜20%、3社間で1〜9%程度が一般的です。緊急性の高い資金需要には有効ですが、継続的に利用するとキャッシュフローを圧迫する可能性があるため、注意が必要です。
3. 売掛債権担保融資(ABL)
売掛債権担保融資(ABL: Asset Based Lending)は、企業が保有する売掛債権や在庫などの流動資産を担保として融資を受ける手法です。ファクタリングと混同されがちですが、ABLは「融資」であり、返済義務があります。
赤字企業にとってABLが有効な理由は、不動産担保や高い信用力がなくても、売掛債権という事業資産を活用できる点にあります。特に、売上は立っているが利益が出ていないという企業や、売掛金の回収サイトが長く資金繰りが厳しい企業に適しています。
金融機関は売掛債権の質(売掛先の信用力、回収期間、過去の回収実績など)を評価して融資額を決定します。通常、売掛債権の70〜80%程度が融資限度額となります。
4. 補助金・助成金の活用
返済不要の資金として、補助金・助成金は赤字企業にとって非常に魅力的な選択肢です。特に、事業再構築や生産性向上を目指す企業向けの制度が充実しています。
- 事業再構築補助金: 新分野展開、業態転換、事業転換等の取組を支援(最大7,000万円)
- ものづくり補助金: 生産性向上のための設備投資を支援(最大3,000万円)
- 持続化補助金: 小規模事業者の販路開拓や生産性向上を支援(最大200万円)
- IT導入補助金: ITツール導入による業務効率化を支援(最大450万円)
補助金は後払いが基本であるため、先に自己資金や融資で投資を実行する必要がある点に注意が必要です。また、審査には事業計画書の提出が必須であり、赤字企業の場合は特に説得力のある回復計画が求められます。
【編集部コメント】
補助金申請には認定支援機関(税理士、中小企業診断士、商工会議所など)のサポートを受けることが有効です。専門家の助言により採択率を高めるだけでなく、事業計画のブラッシュアップにもつながります。
5. 資本性資金の調達
融資とは異なるアプローチとして、資本性資金の調達も検討に値します。資本性資金とは、返済期限が長期に設定されているか、業績に応じた返済条件が設定されている資金のことです。
日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」は、無担保・無保証で、期限一括償還、業績連動金利という特徴を持ちます。財務体質の改善が必要な企業や、新事業展開を図る企業に適しており、金融機関からは自己資本とみなされるため、その後の融資交渉にも有利に働きます。
赤字企業が資金調達を成功させるためのポイント
赤字状態で資金調達を実現するには、通常以上の準備と戦略が必要です。ここでは、調達成功率を高めるための実務的なポイントを解説します。
説得力のある事業計画書の作成
赤字企業にとって最も重要なのは、黒字化に向けた具体的で実現可能な事業計画を示すことです。資金提供者が知りたいのは、「なぜ赤字なのか」「どうやって黒字化するのか」「調達した資金をどう使うのか」という3点です。
効果的な事業計画書には以下の要素が必要です:
- 赤字原因の客観的分析: 市場環境、競合状況、内部要因を冷静に分析
- 具体的な改善策: コスト削減、売上拡大、事業構造改革など数値に基づく施策
- 実現可能な数値計画: 過度に楽観的でない、根拠のある売上・利益予測
- 資金使途の明確化: 調達資金をどの項目にいくら使うのかの詳細
- リスク分析と対策: 計画が想定通り進まない場合の代替案
財務状況の可視化と改善努力の提示
赤字であっても、財務管理がしっかりしている企業は評価されます。月次決算の実施、資金繰り表の作成、経営指標の継続的なモニタリングなど、経営の透明性を高める取り組みは信頼獲得につながります。
また、既に実施している改善努力を具体的に示すことも重要です。人件費の見直し、不採算事業からの撤退、固定費の削減など、実行済みの施策とその効果を数値で示せれば、「経営改善に真剣に取り組んでいる」という姿勢が伝わります。
複数の調達手段の組み合わせ
一つの方法に頼るのではなく、複数の資金調達手段を組み合わせる戦略も有効です。例えば:
| フェーズ | 活用する手法 | 目的 |
|---|---|---|
| 緊急時 | ファクタリング | 即座のキャッシュフロー改善 |
| 短期〜中期 | 制度融資・信用保証付き融資 | 運転資金の確保 |
| 中期〜長期 | 補助金+資本性ローン | 事業再構築・財務基盤強化 |
このように時間軸と目的に応じて手法を使い分けることで、資金繰りを安定させながら本質的な経営改善に取り組むことができます。
専門家のサポートを活用する
赤字企業の資金調達は専門的な知識と経験が必要です。以下のような専門家のサポートを活用することで、成功確率を大きく高めることができます。
- 認定支援機関: 経営改善計画の策定支援、補助金申請のサポート
- 税理士・会計士: 財務分析、事業計画の数値面の精査
- 中小企業診断士: 経営戦略の立案、金融機関との交渉支援
- 金融コンサルタント: 最適な資金調達手法の提案、資金調達の実行支援
特に、金融機関との交渉経験が豊富な専門家は、どのような情報をどう提示すれば審査を通過しやすいかを熟知しています。専門家への報酬は発生しますが、調達成功の確率向上と調達条件の改善を考えれば、費用対効果は高いといえるでしょう。
資金調達後の経営改善が本質的に重要
最後に強調しておきたいのは、資金調達はあくまでも手段であり、目的ではないということです。赤字企業が資金を調達できたとしても、それは一時的な延命に過ぎません。本質的に重要なのは、調達した資金を活用して事業を立て直し、持続的に黒字化することです。
PDCAサイクルの徹底
資金調達時に策定した事業計画を、確実に実行に移すことが求められます。月次でのモニタリング、計画と実績の差異分析、必要に応じた軌道修正など、PDCAサイクルを徹底することで、計画の実現可能性が高まります。
金融機関との継続的なコミュニケーション
資金調達後も、金融機関との関係を維持・強化することが重要です。定期的な業績報告、経営課題の共有、改善施策の進捗報告などを通じて、透明性の高い関係を構築することで、追加融資や条件変更の交渉もスムーズになります。
金融機関は、困難な状況でも誠実に対応し、着実に改善に取り組む企業を高く評価します。一時的な赤字は問題ではなく、その後の対応こそが信頼関係の構築につながるのです。
キャッシュフロー経営への転換
赤字を経験した企業が学ぶべき最も重要な教訓は、キャッシュフロー経営の重要性です。会計上の利益だけでなく、実際の現金の流れを常に把握し、資金繰りを最優先で管理する体制を構築することが、再び資金難に陥らないための鍵となります。
- 週次・月次での資金繰り表の作成と更新
- 売掛金回収の徹底管理と回収サイトの短縮交渉
- 在庫の適正化と不良在庫の削減
- 支払いタイミングの最適化(早期支払い割引の活用など)
- 固定費の変動費化による損益分岐点の引き下げ
これらの施策を地道に実行することで、財務体質は着実に改善していきます。
【編集部コメント】
赤字からの回復には時間がかかります。焦らず、着実に改善策を実行していくことが重要です。短期的な資金調達と中長期的な経営改善を両輪で進めることで、持続可能な企業体質への転換が実現できます。経営者だけでなく、社員全体で危機意識を共有し、一丸となって取り組む体制づくりも忘れてはなりません。
まとめ
赤字決算であっても、資金調達の可能性は十分に存在します。重要なのは、赤字の原因を正確に分析し、黒字化に向けた実現可能な計画を立て、それを適切に伝えることです。
本記事で紹介した制度融資、ファクタリング、ABL、補助金、資本性資金などの手法は、それぞれ異なる特徴を持っています。自社の状況、資金需要の緊急度、事業の将来性などを総合的に判断し、最適な手法を選択することが成功への第一歩です。
また、資金調達は専門性の高い領域であるため、必要に応じて認定支援機関や金融コンサルタントなどの専門家の力を借りることをお勧めします。彼らの経験と知見は、調達の成功確率を大きく高めるだけでなく、より有利な条件での調達実現にもつながります。
最後に、資金調達後の経営改善こそが本質的に重要であることを忘れてはいけません。調達した資金を効果的に活用し、PDCAサイクルを回しながら着実に黒字化を実現することで、企業は次のステージへと進むことができます。
赤字は終わりではなく、企業が変革するチャンスでもあります。適切な資金調達と真摯な経営改善により、より強固な経営基盤を構築していってください。





